【H-05】図書館司書の最後の日
kome
📕 HUMAN SERIES 📖
〜 H-05 〜
『図書館司書の最後の日』
📕 第一章:静寂の終わり
午前9時。開館を告げるチャイムが鳴るのも、今日が最後だ。
白石佐和子(62歳)は、いつものようにカウンターの埃を払い、貸出用のスタンプの日付を確認した。
「2026年3月31日」。
明日からは、この建物はただの古い箱になる。
白石佐和子(62歳)は、いつものようにカウンターの埃を払い、貸出用のスタンプの日付を確認した。
「2026年3月31日」。
明日からは、この建物はただの古い箱になる。
💬 「おはようございます、佐和子さん。……今日で、終わりですね」
同僚の若い司書、美咲が目を赤くして出勤してきた。
「ええ。最後だからこそ、いつも通りにやりましょう」
佐和子は静かに微笑んだ。
同僚の若い司書、美咲が目を赤くして出勤してきた。
「ええ。最後だからこそ、いつも通りにやりましょう」
佐和子は静かに微笑んだ。
この市立図書館は、老朽化とデジタルアーカイブ化の波に押され、駅前の複合施設内にできる「電子情報センター」へと機能を移転することになった。紙の本の多くは廃棄されるか、遠くの保存庫へ送られる。ここにある温かな空間は、もう不要だと判断されたのだ。
📕 第二章:記憶の栞
午前中は、別れを惜しむ常連客たちが次々とやってきた。
「ここで初めて借りた絵本、まだ覚えてるよ」
「受験勉強、毎日ここの自習室で頑張ったんだ」
彼らの言葉一つ一つが、佐和子の胸にある栞(しおり)のように、記憶のページを開いていく。
「ここで初めて借りた絵本、まだ覚えてるよ」
「受験勉強、毎日ここの自習室で頑張ったんだ」
彼らの言葉一つ一つが、佐和子の胸にある栞(しおり)のように、記憶のページを開いていく。
特に印象的だったのは、この図書館で一番の読書家だった老紳士、小野寺さんだ。
「佐和子さん、長い間ありがとう。あんたが選んでくれた本のおかげで、妻を亡くしたあとも、なんとか生きてこられたよ」
小野寺さんは震える手で、最後に借りた歴史小説を返却口に置いた。
「こちらこそ、小野寺さんの感想を聞くのが楽しみでした」
「佐和子さん、長い間ありがとう。あんたが選んでくれた本のおかげで、妻を亡くしたあとも、なんとか生きてこられたよ」
小野寺さんは震える手で、最後に借りた歴史小説を返却口に置いた。
「こちらこそ、小野寺さんの感想を聞くのが楽しみでした」
佐和子は返却された本を受け取り、丁寧に背表紙を拭いた。
紙の手触り、インクの匂い、ページをめくる音。
電子書籍では味わえない、この「重み」こそが、人の心を支えてきたのではないか。
効率化の名の下に、大切なものがこぼれ落ちていく気がして、佐和子の心は揺れた。
紙の手触り、インクの匂い、ページをめくる音。
電子書籍では味わえない、この「重み」こそが、人の心を支えてきたのではないか。
効率化の名の下に、大切なものがこぼれ落ちていく気がして、佐和子の心は揺れた。
📕 第三章:最後の灯り
閉館時間の午後5時。
蛍の光のメロディが館内に流れ始める。最後の利用客を見送り、正面玄関の鍵を閉める瞬間、佐和子の目から涙が溢れた。
蛍の光のメロディが館内に流れ始める。最後の利用客を見送り、正面玄関の鍵を閉める瞬間、佐和子の目から涙が溢れた。
💬 「……ありがとうございました」
誰に言うともなく呟き、深く頭を下げる。
40年前、新米司書として初めてここに立った日の高揚感。
おすすめした本を喜んでくれた子供たちの笑顔。
調べ物相談(レファレンス)で難問を解決した時の達成感。
その全てが、この建物の柱や床、書架の一角一角に染み付いている。
40年前、新米司書として初めてここに立った日の高揚感。
おすすめした本を喜んでくれた子供たちの笑顔。
調べ物相談(レファレンス)で難問を解決した時の達成感。
その全てが、この建物の柱や床、書架の一角一角に染み付いている。
💬 「佐和子さん」
美咲が近づいてきた。
「私、新しいセンターに行っても、佐和子さんのように『人と本を繋ぐ』司書であり続けたいです。端末の検索結果だけじゃなくて、利用者の心に寄り添えるような」
美咲が近づいてきた。
「私、新しいセンターに行っても、佐和子さんのように『人と本を繋ぐ』司書であり続けたいです。端末の検索結果だけじゃなくて、利用者の心に寄り添えるような」
佐和子は涙を拭い、美咲の手を握った。
「ええ、お願いね。場所が変わっても、本の魂は変わらない。それを伝えるのが、私たちの仕事だから」
「ええ、お願いね。場所が変わっても、本の魂は変わらない。それを伝えるのが、私たちの仕事だから」
📖 終章:新しいページ
翌月、佐和子は駅前の公園のベンチに座っていた。
手には、お気に入りの詩集。
目の前には、真新しいガラス張りの「電子情報センター」が輝いている。
手には、お気に入りの詩集。
目の前には、真新しいガラス張りの「電子情報センター」が輝いている。
図書館はなくなった。けれど、物語は終わらない。
「おや、佐和子さん」
声をかけてきたのは小野寺さんだった。手にはタブレットを持っている。
「孫に使い方を習ってね、電子書籍とやらを借りてみたんだ。文字が大きくなるのは便利だね」
「ふふ、そうですね。また感想、聞かせてくださいね」
「おや、佐和子さん」
声をかけてきたのは小野寺さんだった。手にはタブレットを持っている。
「孫に使い方を習ってね、電子書籍とやらを借りてみたんだ。文字が大きくなるのは便利だね」
「ふふ、そうですね。また感想、聞かせてくださいね」
📕 佐和子は空を見上げた。
春の風が、ページをめくるように優しく吹き抜けた。
私の司書としての第一章は終わったけれど、人生という書物はまだ続いている。次はどんな物語を読もうか。
佐和子はゆっくりと立ち上がり、新しい街の喧騒の中へと歩き出した。
春の風が、ページをめくるように優しく吹き抜けた。
私の司書としての第一章は終わったけれど、人生という書物はまだ続いている。次はどんな物語を読もうか。
佐和子はゆっくりと立ち上がり、新しい街の喧騒の中へと歩き出した。
📕 Human Series – H-05 📖
人と人をつなぐ、小さな物語…