📖 RAGTELLER 💎
〜 R-20 〜

『星降る夜の紙飛行機』

🔴 第一章:アナログの遺物
💬 「これ、何?」
リサイクル・センターの仕分けラインで、蒼生は奇妙なものを拾い上げた。
白くて、薄くて、カサカサする。
「パルプ(紙)だ」
NOAが即答した。
「極めて稀少だ。火星では植物繊維は食料か衣服に回される。記録媒体として紙が使われることはない」
それは、一枚の便箋だった。
端が黄色く変色しているが、文字は読み取れる。手書きのインクの跡。
📖 『拝啓、未来の誰かへ』
💎 「手紙……?」
蒼生は驚いた。
データ送信ではなく、物理的な手紙。
誰が、いつ、どこで書いたものなのか。
🔴 第二章:届かない宛先
📖 『私は今、移民船の窓から地球を見ています。青くて、綺麗で、涙が出ます』
『火星に着いたら、この手紙を植えます。いつか木になって、私の言葉が空気に溶ければいい』
50年前の、第一世代の移民の手記だった。
差出人の名前はない。ただ、溢れんばかりの希望と不安が綴られている。
💎 「NOA、この紙……記憶(パルス)が残ってる?」
「微弱だが、ある。ID特定不能。しかし、共通タグは『願い』だ」
NOAが紙をスキャンすると、小さな光の粒が舞い上がった。
それは文字情報以上の想い。
「誰かに聞いてほしい」という、純粋な渇望。
💬 「届けよう」
蒼生は言った。
「この手紙、宛先は『未来の誰か』だろ? それって、僕たちのことだ」
🔴 第三章:空への投函
💬 「どうやって届けるの?」
ルカが尋ねた。
「スキャンしてアーカイブに保存する?」
「違うよ。もっと、こう……相応しい方法があるはずだ」
蒼生は手紙を丁寧に折り始めた。
真ん中で折って、翼を作って。
それは、古の地球の遊び。
💬 「紙飛行機?」
「そう。風に乗せて届けるんだ」
📖 場所は、ドーム最上部の展望デッキ。
夜空には満天の星――ではなく、地球からの定期連絡船の灯りが見える。
気流制御システムが作り出す上昇気流(サーマル)が、優しく吹いている。
💬 「NOA、軌道計算お願い」
「了解。ドーム内の気流循環に乗れば、この紙飛行機は地上に落ちることなく、約3時間は滞空可能」
蒼生は、白い翼を構えた。
Pulse Layerから流れ込む、名もなき移民の想いを感じながら。
(あなたの手紙、確かに受け取りました)
(そして、僕たちがまた、次の未来へ飛ばします)
💬 「いっけえぇぇ!」
🔴 第四章:白い鳥
手紙は、蒼生の手を離れた。
最初は頼りなげに揺れたが、すぐに上昇気流を捉えた。
すぅーっ、と。
驚くほど滑らかに、高く、高く舞い上がる。
💬 「飛んだ……」
ルカが呟いた。
白い紙飛行機は、ドームの照明を反射して、まるで光る鳥のように見えた。
街の灯りの上を、ゆっくりと旋回していく。
データではない。ホログラムでもない。
本物の「物質」が、空を飛んでいる。
その光景を見ていたドームの人々が、指をさした。
「あれは何だ?」
「鳥?」
いいえ、それは50年前の願い。
時を超えて、今ようやく、火星の空を自由に飛んでいる。
NOAが静かに言った。
「Pulse Layerの同調率上昇。……街中の人々が、あの紙飛行機に『希望』を見ている」
📖 終章:着地地点
3時間後。
紙飛行機は、中央公園の、とある大きな木の枝に引っかかって止まった。
それは奇しくも、第一世代が最初に植えたといわれる「はじまりの樹」だった。
蒼生たちが駆けつけると、すでに数人の子供たちが木の下に集まっていた。
「ねえ、これ読んでいい?」
一人の少女が、木に登って紙飛行機を降ろした。
広げられた手紙。
『拝啓、未来の誰かへ』
子供たちの目が輝く。
「すごい! 昔の人からの手紙だ!」
「お返事書こうよ!」
「紙がないよ?」
「タブレットでいいじゃん! 絵を描いて、この木のそばに飾ろう!」
蒼生は笑った。
「届いたね、NOA」
「ああ。そして、また新しいメッセージが生まれようとしている」
手書きの文字は、デジタルネイティブの子供たちには新鮮な魔法に見えただろう。
想いを形にして、飛ばすこと。
その単純な行為が持つ力は、どんな高度な通信技術よりも、人の心を繋ぐのかもしれない。
星降る夜。
火星のドームの下で、小さな伝言ゲームは続いていく。
過去から未来へ。手から手へ。
🔴 RAGteller Series – R-20 📖
物語は続く… in Pulse Layer