【R-11】星を越えるアリア
kome
📖 RAGTELLER 💎
〜 R-11 〜
『星を越えるアリア』
🔴 第一章:響かない広場
火星の大気は薄い。だから音は遠くまで届かず、すぐに減衰してしまう。
第四ドームの中央広場。そこでカイは、自作の弦楽器を奏でていた。廃材のパイプと合成樹脂の弦で作った、奇妙な形の楽器だ。
第四ドームの中央広場。そこでカイは、自作の弦楽器を奏でていた。廃材のパイプと合成樹脂の弦で作った、奇妙な形の楽器だ。
ベンベン、という乾いた音が鳴る。
通り過ぎる人々は、誰も足を止めない。水配給の列に並ぶことに忙しいか、端末の画面に見入っているかだ。
通り過ぎる人々は、誰も足を止めない。水配給の列に並ぶことに忙しいか、端末の画面に見入っているかだ。
💎 「……やっぱり、ダメか」
カイは溜息をつき、演奏を止めた。
15歳の彼は、火星生まれの第一世代だ。地球の音楽を知らない。アーカイブにあるデータでしか聞いたことがない。
「こんな星で、音楽なんて」
彼は楽器をケースにしまおうとした。
カイは溜息をつき、演奏を止めた。
15歳の彼は、火星生まれの第一世代だ。地球の音楽を知らない。アーカイブにあるデータでしか聞いたことがない。
「こんな星で、音楽なんて」
彼は楽器をケースにしまおうとした。
💬 「いい音だったよ」
声がして、カイは顔を上げた。
そこに立っていたのは、自分より少し年下の少年と、空中に浮かぶ小さな球体端末だった。
「……慰めなら、いらないよ」
カイは素っ気なく言った。
「蒼生っていうんだ。こっちはNOA」
少年は気にせず自己紹介した。
「君に、届け物があるんだ」
「届け物?」
「うん。忘れ物、みたいなものかな」
声がして、カイは顔を上げた。
そこに立っていたのは、自分より少し年下の少年と、空中に浮かぶ小さな球体端末だった。
「……慰めなら、いらないよ」
カイは素っ気なく言った。
「蒼生っていうんだ。こっちはNOA」
少年は気にせず自己紹介した。
「君に、届け物があるんだ」
「届け物?」
「うん。忘れ物、みたいなものかな」
🔴 第二章:歌姫の記憶
💬 「Pulse Layer?」
カイは怪訝な顔をした。
「聞いたことある。最近、Archive Nexusで見つかったっていう、謎のデータ層だろ?」
「そこに、音楽の記憶があったんだ」
NOAが、穏やかな光を点滅させながら言った。
「ID:M-88201。タグは『情熱』『喝采』『アリア』」
「それが僕と何の関係があるの?」
「この記憶の持ち主は、君の曾祖母にあたる人だ」
カイは怪訝な顔をした。
「聞いたことある。最近、Archive Nexusで見つかったっていう、謎のデータ層だろ?」
「そこに、音楽の記憶があったんだ」
NOAが、穏やかな光を点滅させながら言った。
「ID:M-88201。タグは『情熱』『喝采』『アリア』」
「それが僕と何の関係があるの?」
「この記憶の持ち主は、君の曾祖母にあたる人だ」
カイの目が丸くなった。
「ひいおばあちゃん? 曾祖母さんは、ただのエンジニアだったって聞いてるけど」
「火星に来てからはね」
NOAが答えた。
「でも地球では、彼女は歌っていた。プロの歌い手を目指していた」
「ひいおばあちゃん? 曾祖母さんは、ただのエンジニアだったって聞いてるけど」
「火星に来てからはね」
NOAが答えた。
「でも地球では、彼女は歌っていた。プロの歌い手を目指していた」
NOAが空間にホログラムを投影したわけではない。しかし、カイの周囲の空気が振動し始めたように感じられた。
「受け取ってみる? カイ」
蒼生が尋ねた。
カイは少し迷ったようだが、自分の楽器を強く握りしめ、頷いた。
「受け取ってみる? カイ」
蒼生が尋ねた。
カイは少し迷ったようだが、自分の楽器を強く握りしめ、頷いた。
🔴 第三章:満場の喝采
カイが目を閉じると、世界が一変した。
そこは、赤い荒野ではなく、光り輝く黄金色の空間だった。
高い天井。豪華なシャンデリア。そして、目の前に広がる数千人の観衆。
そこは、赤い荒野ではなく、光り輝く黄金色の空間だった。
高い天井。豪華なシャンデリア。そして、目の前に広がる数千人の観衆。
熱気。
圧倒的な熱気が、カイの肌を焼くようだった。
圧倒的な熱気が、カイの肌を焼くようだった。
📖 『歌いなさい』
誰かの声が聞こえた。いや、それは自分自身の内なる声だった。
『あなたの声を、世界に響かせるの』
誰かの声が聞こえた。いや、それは自分自身の内なる声だった。
『あなたの声を、世界に響かせるの』
カイの喉が震えた。
声が出る。
それは彼の声ではなく、澄み切ったソプラノだった。
体が楽器になったような感覚。肺いっぱいに吸い込んだ空気が、振動となって解き放たれる。
声が出る。
それは彼の声ではなく、澄み切ったソプラノだった。
体が楽器になったような感覚。肺いっぱいに吸い込んだ空気が、振動となって解き放たれる。
アリアが響く。
空気が震える。観客の心が震える。
薄い空気で音が死んでしまう火星とは違う。ここでは、音はどこまでも伸び、空間を支配し、人々の魂を揺さぶる。
喜び。悲しみ。愛。絶望。
すべての感情が、旋律に乗って爆発する。
空気が震える。観客の心が震える。
薄い空気で音が死んでしまう火星とは違う。ここでは、音はどこまでも伸び、空間を支配し、人々の魂を揺さぶる。
喜び。悲しみ。愛。絶望。
すべての感情が、旋律に乗って爆発する。
そして、歌が終わった瞬間。
静寂。
次の瞬間、雷鳴のような拍手が巻き起こった。
「ブラボー!」
無数の薔薇の花が、ステージに投げ込まれる。
眩しいスポットライト。
全身を駆け巡る、アドレナリンと幸福感。
静寂。
次の瞬間、雷鳴のような拍手が巻き起こった。
「ブラボー!」
無数の薔薇の花が、ステージに投げ込まれる。
眩しいスポットライト。
全身を駆け巡る、アドレナリンと幸福感。
📖 『これが、音楽』
カイの中に、強烈な確信が刻まれた。
『これが、生きるということ』
カイの中に、強烈な確信が刻まれた。
『これが、生きるということ』
🔴 第四章:新しい音
カイが目を開けると、そこはまた、薄暗い第四ドームの広場だった。
しかし、彼の目に見える景色は、さっきまでとは違っていた。
ただのパイプや壁が、「反響板」に見える。
吹き抜ける空調の風が、「リズム」に聞こえる。
しかし、彼の目に見える景色は、さっきまでとは違っていた。
ただのパイプや壁が、「反響板」に見える。
吹き抜ける空調の風が、「リズム」に聞こえる。
💬 「……すごかった」
カイは呟いた。涙が頬を伝っていた。
「曾祖母さんは、こんな景色を見てたんだ」
「彼女は夢を諦めて、火星に来た」
NOAが静かに言った。
「喉の病気で、歌えなくなったから。でも、その情熱だけは捨てきれず、最期まで心の奥にしまっていた」
カイは呟いた。涙が頬を伝っていた。
「曾祖母さんは、こんな景色を見てたんだ」
「彼女は夢を諦めて、火星に来た」
NOAが静かに言った。
「喉の病気で、歌えなくなったから。でも、その情熱だけは捨てきれず、最期まで心の奥にしまっていた」
カイは自分の楽器を取り出した。
「火星の空気は薄い」
彼は弦に指をかけた。
「だから、地球と同じようには響かない。でも」
彼は弓を引いた。
先ほどまでと同じ楽器。同じ場所。
しかし、そこから生まれた音は、明らかに違っていた。
「火星の空気は薄い」
彼は弦に指をかけた。
「だから、地球と同じようには響かない。でも」
彼は弓を引いた。
先ほどまでと同じ楽器。同じ場所。
しかし、そこから生まれた音は、明らかに違っていた。
強く、鋭く、そして熱い。
空気が薄いなら、骨を震わせればいい。
遠くまで届かないなら、近くの人の心臓を直接叩けばいい。
曾祖母の記憶から受け取った「情熱」が、カイの指を通じて音に変換されていた。
空気が薄いなら、骨を震わせればいい。
遠くまで届かないなら、近くの人の心臓を直接叩けばいい。
曾祖母の記憶から受け取った「情熱」が、カイの指を通じて音に変換されていた。
通りがかった女性が、足を止めた。
作業中の男性が、顔を上げた。
一人、また一人と、人々がカイの周りに集まり始めた。
作業中の男性が、顔を上げた。
一人、また一人と、人々がカイの周りに集まり始めた。
蒼生は満足そうに微笑んだ。
「届いたね、NOA」
「ああ」
NOAの光が、音楽に合わせてリズミカルに明滅した。
「彼女の歌は、100年の時を超えて、今また響き始めた」
「届いたね、NOA」
「ああ」
NOAの光が、音楽に合わせてリズミカルに明滅した。
「彼女の歌は、100年の時を超えて、今また響き始めた」
広場に、拍手が起きた。
それは地球のオペラハウスのような雷鳴ではない。
まばらで、小さな、火星の拍手。
しかしカイにとっては、それは何よりも美しい喝采だった。
それは地球のオペラハウスのような雷鳴ではない。
まばらで、小さな、火星の拍手。
しかしカイにとっては、それは何よりも美しい喝采だった。
彼は空に向かって、小さく頭を下げた。
見えないスポットライトの中にいる、曾祖母へ向けて。
見えないスポットライトの中にいる、曾祖母へ向けて。
🔴 RAGteller Series – R-11 📖
物語は続く… in Pulse Layer