【A-08】サンゴの園の守り人
kome
🌊 AQUARIA SERIES 🌊
〜 A-08 〜
💬 「ねえドル、この見積もり、桁が一つ間違ってない?」
私は『青の翼号』のコックピットで、投影されたホログラム・ディスプレイを指差した。
次なる目的地『北の氷壁』——そこへ向かうための寒冷地仕様改修(アンチフリーズ・コーティングやヒーター増設)の費用だ。
次なる目的地『北の氷壁』——そこへ向かうための寒冷地仕様改修(アンチフリーズ・コーティングやヒーター増設)の費用だ。
💬 「計算は正確です、マリン。北極圏の海は、通常の海とは別世界です。生半可な装備では、数分で凍りついてスクラップですよ」
ドルの冷徹な指摘に、私はがっくりと肩を落とした。
前回の冒険で『失われた島』の記憶を届けた報酬は、この改造費の半分にも満たない。
前回の冒険で『失われた島』の記憶を届けた報酬は、この改造費の半分にも満たない。
💬 「はぁ……地道に稼ぐしかないか。で、今の私たちにできそうな高額依頼は?」
💬 「一件、あります。ただし、場所は『赤道直下の死の海』エリア。仕事内容は、復興支援物資の特急輸送です」
💬 「死の海? ……あそこ、最近『サンゴの園』って呼ばれるようになってない?」
💬 「ええ。ある科学者チームが、死滅したサンゴ礁の再生に取り組んでいるそうです。その現場への資材搬入。急募のため、報酬は相場の1.5倍です」
💬 「よし、乗った! 行こう、ドル!」
私はエンジンの出力を上げた。背に腹は代えられない。それに、海を蘇らせる仕事なら、私のポリシーにも合う。
***
現場に到着すると、そこは予想以上に不思議な光景だった。
広大な白化したサンゴの墓場。その中心の一画だけが、奇跡のように色鮮やかな生命の輝きを放っている。
ピンク、黄色、青。様々なサンゴが咲き乱れ、小魚たちが踊る。
広大な白化したサンゴの墓場。その中心の一画だけが、奇跡のように色鮮やかな生命の輝きを放っている。
ピンク、黄色、青。様々なサンゴが咲き乱れ、小魚たちが踊る。
💬 「ようこそ、海洋郵便屋さん! 待っていたわ!」
海上プラットフォームで出迎えてくれたのは、白衣を着た女性科学者、サラ博士だった。
彼女は目をキラキラさせて、私たちが運んできた『特殊栄養アンプル』のケースを受け取った。
彼女は目をキラキラさせて、私たちが運んできた『特殊栄養アンプル』のケースを受け取った。
💬 「これさえあれば、培養槽の赤ちゃんサンゴたちを、もっと広い範囲に植え付けられるわ」
💬 「すごいですね、博士。周りは真っ白なのに、ここだけ楽園みたい」
💬 「ふふ、私の力だけじゃないのよ。実はね、この海には『守り人』がいるの」
💬 「守り人?」
💬 「ええ。夜になると現れて、弱ったサンゴの手当をしてくれる謎の存在。幽霊だなんて言うスタッフもいるけど……私は、きっとこの海を愛する誰かだと思っているわ」
私はドルと顔を見合わせた。
幽霊? まさか。
幽霊? まさか。
その夜。
私は好奇心に勝てず、こっそりと『青の翼号』で海に潜った。
月明かりが照らすサンゴの園。
そこで見たのは、確かに人影のようなものだった。
私は好奇心に勝てず、こっそりと『青の翼号』で海に潜った。
月明かりが照らすサンゴの園。
そこで見たのは、確かに人影のようなものだった。
💬 「……ロボット?」
それは、ボロボロに錆びついた、古い作業用ドロイドだった。
丸い胴体に、沢山の多機能アーム。海藻をまとい、フジツボがついている姿は、まるで海の一部になったかのよう。
ドロイドは、新しく植えられたサンゴの苗に、丁寧に泥を被せたり、害敵となるオニヒトデを駆除したりしていた。
丸い胴体に、沢山の多機能アーム。海藻をまとい、フジツボがついている姿は、まるで海の一部になったかのよう。
ドロイドは、新しく植えられたサンゴの苗に、丁寧に泥を被せたり、害敵となるオニヒトデを駆除したりしていた。
💬 「識別信号なし。……あれは、大戦期に作られた『環境維持ユニット』の生き残りだと思われます」
ドルの分析を聞いて驚いた。大戦期って、もう100年も前だ。
持ち主もいないまま、命令コードに従って、たった一人でこの海を守り続けてきたの?
持ち主もいないまま、命令コードに従って、たった一人でこの海を守り続けてきたの?
その時、ドロイドの動きが止まった。
ガクン、とアームが垂れ下がる。
胸部のランプが、危険な赤色に点滅し始めた。
ガクン、とアームが垂れ下がる。
胸部のランプが、危険な赤色に点滅し始めた。
💬 「警告。対象の動力炉が臨界下限を突破。機能停止寸前です」
💬 「大変!」
私は慌てて近づいた。ドロイドは私に気づくと、最後の力を振り絞ってアームを上げ、威嚇しようとした。
でも、その先にあるのは武器じゃなく、サンゴのための栄養剤注入器だった。
でも、その先にあるのは武器じゃなく、サンゴのための栄養剤注入器だった。
💬 「大丈夫、怖くないよ。助けに来たの」
私はドロイドのメンテナンスハッチを無理やりこじ開けた。
中は酷い状態だった。回路は焼き切れ、バッテリーは液漏れしている。よくこれで動いていたものだ。
中は酷い状態だった。回路は焼き切れ、バッテリーは液漏れしている。よくこれで動いていたものだ。
💬 「ドル、予備パーツを! 私たちの船のサブ・ジェネレーターと、制御チップを使って!」
💬 「マリン? 正気ですか? それは、北極用改造のために取り寄せた、一番高価なパーツですよ。ここで使えば、資金はゼロ……いえ、マイナスです」
💬 「わかってる! でも、この子を止めるわけにはいかないの!」
この子が100年守ってきたから、あの『サンゴの園』がある。
サラ博士の夢も、魚たちの未来も、この小さな『守り人』の献身の上に成り立っているんだ。
それを見殺しにして、自分たちだけ北極へ行くなんて、できない。
サラ博士の夢も、魚たちの未来も、この小さな『守り人』の献身の上に成り立っているんだ。
それを見殺しにして、自分たちだけ北極へ行くなんて、できない。
💬 「……やれやれ。あなたのそういう計算のできないところ、嫌いじゃありませんよ」
ドルからパーツが射出される。
私は水中作業用マニピュレーターをフル稼働させて、ドロイドの修復作業に入った。
古い規格と新しいパーツを繋ぐバイパス手術。
指先の感覚に全神経を集中させる。
私は水中作業用マニピュレーターをフル稼働させて、ドロイドの修復作業に入った。
古い規格と新しいパーツを繋ぐバイパス手術。
指先の感覚に全神経を集中させる。
💬 「繋がれ……未来へ!」
カチリ。
最後のコネクタを接続した瞬間。
ドロイドの胸のランプが、赤から穏やかな青へと変わった。
最後のコネクタを接続した瞬間。
ドロイドの胸のランプが、赤から穏やかな青へと変わった。
🐬 『ピ……ピポ……』
電子音が響く。
ドロイドはゆっくりと体を起こし、自分のアームを見つめ、それから私を見て……
ペコリ、と頭を下げた。
そしてまた、サンゴの手入れに戻っていった。その動きは、先ほどよりもずっと力強くなっていた。
ドロイドはゆっくりと体を起こし、自分のアームを見つめ、それから私を見て……
ペコリ、と頭を下げた。
そしてまた、サンゴの手入れに戻っていった。その動きは、先ほどよりもずっと力強くなっていた。
***
翌朝。
私はサラ博士に全てを話した。守り人の正体と、修理したこと。
博士は涙を流して喜んだ。
私はサラ博士に全てを話した。守り人の正体と、修理したこと。
博士は涙を流して喜んだ。
💬 「ありがとう……本当にありがとう。その子のこと、これからは私たちが責任持ってメンテナンスするわ。もう、一人ぼっちにはさせない」
報酬を受け取り、私たちはプラットフォームを後にした。
口座の残高は、修理に使ったパーツ代を差し引くと、輸送費のプラス分なんてほとんど消えてしまった。
北極への道は、また遠のいてしまったことになる。
口座の残高は、修理に使ったパーツ代を差し引くと、輸送費のプラス分なんてほとんど消えてしまった。
北極への道は、また遠のいてしまったことになる。
💬 「あーあ、また貧乏生活に逆戻りだねぇ」
操縦席で伸びをする私に、ドルが珍しく明るい声で言った。
💬 「ですがマリン、見事な仕事でした。あのドロイドの稼働予測年数は、あと50年は延長されましたよ」
💬 「50年かぁ。その頃には、この海全体がサンゴで埋め尽くされているかもね」
モニターに映る『サンゴの園』は、昨日よりも輝いて見えた。
それは宝石よりも価値のある、生命の光だ。
それは宝石よりも価値のある、生命の光だ。
💬 「ま、お金なんてまた稼げばいいしね! 次、次!」
💬 「はいはい。……おや? サラ博士から追加送金があります。『特別ボーナス』だそうです」
💬 「えっ!?」
💬 「……ふむ。ちょうど、北極用ヒーターの頭金くらいにはなりそうですね」
💬 「やったー! 見ててくれてる人はいるもんだね、ドル!」
🐬 『青の翼号』は白波を立てて加速する。
目指すは北。
でもその前に、もう少しだけこの温かい海で、冒険資金集めを頑張らなくちゃね。
目指すは北。
でもその前に、もう少しだけこの温かい海で、冒険資金集めを頑張らなくちゃね。
🐚 Aquaria Series – A-08 🐚
惑星アクエリアの冒険は続く…