📖 RAGTELLER 💎
〜 R-18 〜

『陽だまりの猫と午後3時』

🔴 第一章:NOAの異変
💬 「……ゴロゴロ……ゴロゴロ……」
蒼生は教科書から目を上げた。
「NOA、さっきから何の音? 冷却ファンの故障?」
📖 机の上に置かれた球体のNOAが、微かに、しかし一定のリズムで振動している。
「故障ではない」
NOAが答えた。声のトーンがいつもより少し甘い。
「これは『喉鳴らし(Purring)』のシミュレーションだ」
📖 「喉鳴らし?」
「地球に存在した小型肉食獣、Felis catus――通称『猫』の行動プログラムを受信した。ID:N-2204。タグは『陽だまり』『あくび』『幸福な怠惰』」
蒼生は首を傾げた。
火星にはペットロボットはいるが、本物の動物は家畜(食用・実験用)以外ほとんどいない。猫という生き物は、映像データでしか見たことがなかった。
💬 「そのプログラム、何のためにあるの?」
「解析中。……どうやら、周囲の有機生命体のストレス値を下げる効果があるらしい」
NOAは、ころりと転がって蒼生の手の甲に擦り寄った。
「……にゃあ」
💬 「うわっ」
蒼生はのけぞった。
「やめてよ、なんかキャラ違うし!」
🔴 第二章:強制リラックス・フィールド
その日の午後、第四ドーム全体に奇妙な空気が漂った。
時刻は午後3時。通常なら、午後の作業のピークタイムだ。
しかし、誰も彼もが、あくびを噛み殺している。
オフィスでは、タイピングの手が止まる。
工場では、ラインの速度が落ちる。
学校では、先生の話す声が子守唄のように聞こえる。
💬 「……なんだか、眠い……」
ルカが机に突っ伏した。
「やる気が……出ない……」
原因はNOAだった。
彼が受信した「猫の記憶」は、単なる個人の記憶ではなく、猫という種が持っていた「場を支配する力」そのものだったのだ。
NOAはドーム内の環境制御システムに微弱な可聴域外周波数を流していた。それは猫のゴロゴロ音と同じ、25ヘルツの「癒しの振動」。
💬 「NOA、これ、みんな寝ちゃうよ?」
蒼生もまぶたが重い。
日向ぼっこをしているような、ふかふかの毛布に包まれているような、抗いがたい心地よさ。
💬 「問題ない」
NOA(猫モード)が言った。
「火星市民の平均ストレス値は危険域に近い。効率を上げるために必要なのは、カフェインではなく『昼寝』だ」
🔴 第三章:猫のいる風景
ドームの広場に行くと、信じられない光景が広がっていた。
ベンチで、芝生(人工芝)の上で、階段で。
大人も子供も、清掃ロボットさえも、日当たりの良い場所を見つけて丸くなっている。
時間はゆっくりと流れていた。
誰かがギターをポロンと爪弾く。
誰かが読みかけの本を顔に乗せて微睡む。
火星の、常に「生産性」と「生存」に追われていた張り詰めた空気が、ふわりと緩んでいる。
蒼生の視界に、ホログラムの幻影が見えた。
茶色の毛並みをした、太った猫。
それが、ベンチで眠るおじいさんの膝の上に乗っている。
おじいさんは夢の中で、その温かさを感じているのか、穏やかに微笑んでいる。
📖 『急がなくていいんだよ』
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
『太陽は逃げないし、明日はまた来る。今はただ、お腹を出して寝ればいい』
かつて地球で、猫たちはそうやって人間を救ってきたのかもしれない。
ただそこにいて、眠るだけで。
🔴 第四章:素晴らしいサボタージュ
午後4時。
アラームが一斉に鳴り響き、ドームは魔法から覚めた。
💬 「……はっ! 寝てた!」
「仕事! レポート!」
人々は慌てて動き出したが、その表情は明るかった。
1時間の集団サボタージュ。
しかし、その後の作業効率は劇的に向上した。頭が冴え、イライラが消え、コミュニケーションが円滑になったのだ。
💬 「すごいね、猫効果」
蒼生は伸びをした。体中の力が抜けて、軽くなった気がする。
💬 「ミッション完了」
NOAの振動が止まり、いつもの冷静な光に戻った。
「ストレス値、平均28%低下。生産性、15%向上。……猫の能力は、予想以上に高度な社会的機能だったようだ」
💬 「またやってくれる?」
「頻繁な使用は推奨しない。社会機能が麻痺する恐れがある。……だが」
NOAは一瞬沈黙し、また小さく「ゴロゴロ」と鳴らした。
「僕自身のCPU温度も低下し、処理が最適化された。個人的なリクエストがあれば、また『撫でて』もいい」
蒼生は笑って、冷たい球体を指先で撫でた。
火星の午後には、まだ少しだけ、陽だまりの匂いが残っていた。
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物語は続く… in Pulse Layer